仮病テクニシャン
高校時代の友人T君は仮病の達人だった。
学校をズル休みしたい時や早退したい時に、体調が悪いことをアピールするためのテクニックを持っていた。
顔を赤くした上、目をウルウルさせることが出来たのだ。
風邪を装うのである。
顔を赤くするのは息を止めりゃいいんだろうという事は容易に想像できたが、目を潤ませる方法はわからなかった。女優並みだ。
自分のペットが死んだときのことを思い出したり、感動した映画を思い出したら泣けるという人はよく聞く。
実際、知り合いの女性に「火垂るの墓」のワンシーンを思い出したら、数秒もせずに泣けるという人間がいた。
女性は、こういう技術を持っているから恐ろしい。
さて、こういう泣けるポイントを持ち合わせていなかった私は、とりあえずどうしたらウルウルできるのかとT君に聞いてみた。使うことはないだろうと思いつつも。
すると回答してくれた。
鼻の奥に意識を集中する。すると自然とジワーンとしてきて目が潤んでくる。
ただそれだけの話だった。
なんと単純な方法だこと・・・・でも私には出来なかった。
そして大人になってからの話。
毎日仕事をしていると、体の具合が悪くなる日がある。
しかし、なかなか言い出せないものだ。特に新人時代は。
上司のほうから「具合悪いのか?早退しなさい」と言ってもらえれば一番楽だ。
いつも体調の悪そうな顔をしているので、具合の悪さが目立たない私は、ある日一計を案じた。
あのT君の方法を久しぶりに試そうと。
本当に体調が悪いのに、それをアピールしようというのも変な話だが・・・
鼻の奥に神経を集中した。
おっ、ジワーンとしてきたぞ。
やややっ、目がウルウルしてきた!!
成功だ!!
と、そこで止まればよかったのだが、勢いは止まらなかった。
涙がポロリ。
それを同僚に見られてしまった。
「何泣いてんの?」
「い、いや、別に・・・」
大の男が仕事中に涙を流している姿。
客観的に考えただけで気持ち悪い。
そんな自分のおバカな姿に、さらに泣けてしまった。
それから、二度とこの方法は試さないようになったのである。
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